第11回 教育相談
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1. 教育相談とは
1-1. 教育相談とは
子どもの成長を目指した教師による教育実践
すべての教師が、児童生徒それぞれの発達に即して、好ましい人間関係を育て、生活への適応や自己理解、人格的成長を援助するために、さまざまな機会において行うものである(文部科学省, 2010) 教育相談担当だけが相談室等の特別な場において行うものではない
2017(平成29)年告示の小学校及び中学校学習指導要領においても、ガイダンスと合わせてカウンセリングの指導を適切に行うことが必要とされる 主に集団の場面で必要な指導や援助を行う
個々の児童生徒の多様な実態を踏まえ、一人一人がかかえる課題に個別に対応した指導を行う
特に、小一プロブレムや中一ギャップといわれる学校種移行に困難をかかえる児童生徒の存在を背景として, 入学当初の学校生活への適応を図ることが重視されている 教育相談というと,個別のカウンセリングのイメージが強いが, 教育相談の基本的な構えと技法は, あらゆる教育活動の中に組み込まれ,児童生徒を支えている
1-2. 心理教育的援助サービスとしての教育相談
石隈(1999)は, コミュニティ心理学の考え方を基本として, 学校における児童生徒を対象とする心理教育的援助サービスを3段階でとらえるモデルを提案 https://gyazo.com/39ed9da9f1695c55af184f01191550a3
一般的な教育相談のイメージにある,不登校・いじめ等の心理教育的援助ニーズをもち, 個別の支援を必要とする子ども達を対象とする支援 子ども達が自分を見つめなおし、 自分の強みを活かしながら問題解決へ向かう援助が提供される
3次的援助サービスの対象ほど深刻かつ危機的な状況にあるわけではないが、学校に行くのを嫌がるようになった子どもや欠席が目立ちはじめた子ども,転校生等危機に陥る可能性が示唆される子ども達を対象とする
早期対応することで問題の深刻化を未然に防止する予防的援助
すべての子ども達の発達や教育上の課題遂行を支援する
顕在化した困りごとのない子ども達にも援助ニーズはある
具体的には, 前述した学習指導要領にもあるように, 入学時の適応等多くの子どもが経験する困難を予測して危機を予防するための取り組みや,「特別の教科 道徳」 や 「総合的な学習の時間」 「特別活動」におけるソーシャルスキル育成の取り組みが例として挙げられる。 1-3. 保護者支援としての教育相談
教育相談は児童生徒のみではなく, 保護者を対象とすることも多い。
学校や教師は表面的な怒りや攻撃に巻き込まれることなく, 保護者もまた支援を必要とする存在であるとの認識のもとで向き合う必要がある
保護者は敵対者どころか, 協働して子ども達を支えるパートナーであることを忘れてはならない
子どもに問題行動や心の課題があれば, 保護者はわがことのように心を痛めて心配すると同時に, 自責の念と不安に駆られ混乱してしまうことも多い
こうした保護者の混乱が学校や教師への不信と攻撃として表現され,子ども支援における協働的なパートナーシップ構築を難しくすることもある
怒りや攻撃は願いと期待の裏返しともいわれる
重要なのは、保護者支援が子ども支援につながることを意識し、問題解決に向けて協力しあう信頼関係を保護者との間に構築すること
そのためにも, 教師や学校関係者は, 保護者は相談の時に至るまで多くの場合最善を尽くしてきたであろうことを理解し,相談の場における「気が重い」気持ちに寄り添い, 「学校と話ができてよかった」という気持ちをもって帰ってもらえるような相談の終え方を心掛ける必要がある。
2. 教育相談に活かすカウンセリングの技法
2-1. 基本的な構え
援助者は,
一定の訓練を通じて,来談者との間に望ましい固有な対人関係を確立する力量を備えていることが要請され、
来談者の心身および行動面の症状や障がいの悪化を防ぎ、
さらにパーソナリティの発展や成長を促し、
より一層の自己実現を可能とすることが目指される
援助者が自分の気持ちをゆがめることなく正直に気づき,またそれを十分な配慮のもとに来談者に伝えること
語られる来談者の体験について, 一切の価値判断をせずにそのまま受容し尊重していく姿勢
来談者は、自らの体験に関心を払ってもらい、かつ認められたという感覚をもつことができる
来談者の体験が聞き手である援助者に感覚として生じることであり,来談者の体験を来談者自身が経験しているように理解しようとする態度のこと(小林, 2010) 共感的理解には, 援助者が過去に来談者と似たような体験をしていることが必要といわれることもある
類似経験は必須ではなく, 来談者の視点からその体験を見ようと試みる姿勢をもって向き合うことこそが重要となる こうしたカウンセリングにおける援助者の基本的な構えは教育相談においても同様
誠意と敬意をもって来談者の世界をそのまま理解・受容しようとすることを心にとどめておく必要がある
2-2. コミュニケーションの技法
来談者の言葉をただ聞くのではなく, 積極的に聴くという聞き方
来談者の言葉の背後にある感情や背景に思いをはせながら, 来談者の世界を理解しようという構えをもちつつ, 来談者の声に耳を傾ける
来談者の話に関心をもちながら聴いていることを来談者に伝えることも重要
「うん」 「そうですか」 「なるほど」 などのあいづちを打ちながら, 反論や批判をしたくなっても, 相手を否定せずに受容的に聞くという, エネルギーを使う営みである
来談者の言葉をできるだけそのまま忠実に繰り返す応答技法 e.g. 「途方に暮れてしまうんです」 「途方に暮れてしまうんですね …」
語りが促進される効果がある
自分の言葉を繰り返されることで、来談者はしっかり聴いてもらっているという感覚を得ることができる
来談者が語る模然とした感情に焦点を当てながら言語化して返す応答技法
「~というお気持ちなんですね」「このような時に~と感じられるのですね」
感情は混沌として本人の中でもやもやと渦巻いていることも多いが, 援助者による言語化によって混沌とした感情が整理され,来談者は自らの感情やその生起パターンに気づくことができる
4. 明確化
来談者がうまく表現できないことを,援助者が言語化して心の整理を手伝う技法
来談者が混乱しており話の内容が整理されていない時に,「それは~ということですね」のように, 来談者が用いた言葉を使いながら, 本質をそこねることなくまとめなおすことで、その意味や内容を明確にすることができる
5. 沈黙を大切にする
相談中に来談者が黙ってしまうことがあるが, 援助者が沈黙に耐え切れずしゃべり続けることは慎まなければならない
相談中の沈黙にはさまざまな意味が込められている
質問の意味や回答を考えたり自分の感情を整理したりするために, 来談者にとって必要な時間であることも多い
一方で, 質問に答えたくない無意識的な抵抗の表明や, 援助者への攻撃の手段として沈黙が使われることもある
援助者は沈黙の意味をよく考え,来談者とともに沈黙を共有したり、時には, 「黙ってしまったね… …」 と声かけをしたりと、沈黙の意味に応じて柔軟な対応をすることが必要となる
6. 要約
「今日は~というお話を聞かせていただいたように思っています」「これまでのお話をまとめると~ということですね」のように、来談者によって語られた内容の重要部分を短縮し, まとめて伝える技法
「何か足りないことや誤りはありますか」 と補足や修正の有無を確認することもある。また,継続相談の場合は,はじめに「このあいだは〜のことをお話しましたね」 と, 前回の相談内容を簡単に振り返ってから相談に入ることもある
2-3. 守秘義務
公務員や医療関係者・心理職・福祉職等の対人援助職など、その職務の特性として個人情報を扱う職業において, 正当な理由なしに,職務上知り得た秘密を漏らしてはならないという職業倫理のひとつ 個人情報保護法を遵守し、個人情報を含む資料や記録を厳正に管理することは共通 何をもって正当な理由と考えるかや、違反した場合の罰則については各職業固有の倫理規程によって定められている
教育相談の場合
相談中に知り得た個人情報や相談内容
相談があったという事実
教育相談において守秘義務が大きな問題として浮上するのは, 他職種もしくは教員間でチーム援助を行う際
特に他職種間連携の場合, 個人情報や相談内容について何をどこまで共有すべきかの認識が必ずしも同一でないこともあり, 2003 (平成15)年の個人情報保護法施行直後は十分な情報共有が行われず, 適切な支援につながらないこともあった
来談者の利益につながることを条件として、援助チーム内においては秘密の共有が許容される
相談の中で児童生徒から「誰にもいわないで」といわれた時でも、共有した方がいい内容であれば、児童生徒に「○○先生やご両親にも伝えた方がいいと思うが伝えてもよいか」 と, その意向をきちんと尋ね, 了解を得た上で情報共有を行うことが必要になることもある
3. 開発的教育相談
3-1. 開発的教育相談とは
子どもの適応力を伸ばし, 子ども達がよりよい生活を送れるようにすることを目的とする, 開発的取り組みが学校に導入されるようになった
背景
感情のコントロールの拙さや道徳性の低下といった子ども達の心の育ちが問題視
従来子どもの心の育ちに大きな役割を果たしてきた家庭や地域コミュニティの援助資源としての教育力が低下 学校が子どもの心の育ちを積極的に支えることが求められるようになった
専門機関との連携が欠かせない不適応対応としての “治療的教育相談”とは異なり,日常的な教師のかかわりの中で行われる “子どもを育てる教育相談”が開発的教育相談 (2)開発的カウンセリングの手法
教育相談の新たな展開として、以下のような開発的教育相談の手法が紹介されている
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例
人づきあいのうまい下手を、天賦の才ではなく教授学習可能な技術としてとらえ、意図的計画的にスキルを高めることを目指すのがソーシャルスキルトレーニング
他者を理解し思いやる力
自分の思いや考えを適切に相手に伝える力
問題解決力
人間関係形成力等
ものの見方を変える認知への働きかけに応用される技法
もう一つの見方を提示することで,ネガティブな思い込みをポジティブな方向へ修正するというもの
「私はいろいろなことに気が散ってしまって集中できないダメ人間なんです」「いろいろなことに関心があって好奇心旺盛ですね」
リフレーミングは学校現場でもとりいれやすく,活用しやすい教材も開発されている
4. 教育相談の新しい課題
2018(平成30)年度の不登校児童生徒数は16万4千人を超え, 史上最多記録を更新
不登校児童生徒の大きな問題
基礎学力が身についていないことが、子ども達の社会的自立に影響を与えること
2016 (平成28) 年12月に 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」(通称「教育機会確保法」) 不登校児童生徒の教育の機会を確保することをひとつの目的
同法によって
国および地方公共団体は、全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り安心して教育を受けられるよう、学校における環境を確保することに努めなければならない
不登校児童生徒の学校及び学校以外の場における学習活動への支援を行う措置を講ずること
個別の教育相談と、全児童の開発的教育相談とを支援の両輪として対応していくことが以前にも増して重要
不登校以外にも学校がかかえる課題は多様化している
特別な教育的ニーズのある子ども達への合理的配慮等々